その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「わかりました。話はまだ終わってないんで、碓氷さんのこと、このまま拉致っていいですか?」
私の前に身を乗り出した広沢くんが、至近距離で微笑んだ。
話し方はそれまでと変わらないのに、妖しく綺麗に微笑む彼の瞳の奥が怖い。
「そんな脅しには乗らないわよ」
強気で答えたら、広沢くんが私の座る助手席の背もたれに手をついた。
内心ドキドキしながらも、強気な姿勢で広沢くんを見返し続ける私に、彼がグッと顔を近づけてくる。
そのままキスでもされそう。
それくらいに距離が縮まっても強気の姿勢を崩さずにいたら、ついに彼のほうが根負けした。
背もたれには手をついたまま、広沢くんが私の耳元で力なくため息を吐く。
「いいじゃないですか。別にデートくらい。乃々香ちゃんのかけっこの練習だって付き合ったんだし。今日だって、すげー早起きして頑張ったのに……」
小さな声でぼやきながら、広沢くんが悔しげに手のひらでクシャッと髪を乱した。