極上御曹司のヘタレな盲愛

「水島課長と政略結婚が決まったって、本当なの⁉︎」

「……」

「黙っていないでなんとか言いなさいよ！」

「しかも！うちの高橋君と付き合ってたのに、水島課長に乗りかえたってどういう事よ！

「いい気になってるんじゃないわよ！双子の残念な方のクセに！」

「政略結婚なんて取り消しなさいよ！」

「残念な残り物のアンタと政略結婚なんて！水島課長が可哀想じゃないの！高橋君でも可哀想だわ！」

『覚悟を決めろ』
また大河の声が聞こえた気がした…。
ホント…捕まってしまったな…。

「…私と営業２課の水島課長は…近いうちに結婚する事になると思います。でも政略結婚ではありません。
あと、私と高橋君はお付き合いしてはいません。高橋君にも失礼ですので、これ以上憶測でものを言うのはやめて下さい。…失礼します」

言っちゃった…。

更衣室のドアを開けて外に出る。

なぜか始業時間ギリギリなのに、廊下にも女性社員が大勢残っていたので驚いた。

「待ちなさいよ！まだ話は終わっていないのよ！」

叫ぶような声で呼び止められ、更衣室の中から追いかけてきた誰かに、強い力でグイッと腕を引かれた。
長い爪が二の腕に食い込んで痛い！

「痛っ…！」

驚いて振り向くと…受付チームの斎藤紫織が鬼のような形相で私の二の腕を掴んでいた。

「本当に水島さんと結婚するの？嘘よね！嘘なんでしょう？
アンタなんかがあの人と釣り合うと、まさか本気で思ってる訳じゃ無いわよね！」

私を睨みつけている顔…斎藤紫織は私の事を心の底から憎んでいる…。
中等部の頃から彼女は、ずっとこんな顔で私の事を見ていたっけ…。

今…彼女の目は私への怒りと憎しみで充血し、綺麗に口紅がひかれた口元はワナワナと震えている。

その目が…掴んでいる私の左手薬指に嵌っている指輪を捉えた…。

「まさか！その指輪…！水島さんに貰ったなんて言わないわよね！
ちょっと！外しなさいよ！外しなさいってば！外せーーッ！」

「痛ツ！」

長く綺麗に手入れがされた爪を立て、ギリギリと私の二の腕を締め付けながら、力任せにブンブンと振ったので、皮膚が裂け、廊下の床にポタポタと血が滴った。

「「キャーッ」」

周りで見ていた女性社員達から小さな悲鳴が上がった。

「紫織！ちょっと！やり過ぎだって！いくら残念な方でも社長の娘だよ！」

「うるさいッ！」

「はなし…て…」


その時だった…。