極上御曹司のヘタレな盲愛
「その手を退けろ!」

周りの女性社員達を掻き分けて現れたのは…。

「大河…!お兄ちゃん…!」
「「水島課長!…常務!」」

二人の顔を見た瞬間泣きそうになった…。

二人は、床に滴った私の血を見ると顔色を変えた。

「その手を退けろって言ってんだろ!」
「手をはなせよ!」

と叫ぶと、それでもはなさない斉藤紫織の手を二人掛かりで引き剥がし、大河がハンカチで傷をギュッと抑えて止血しながら私を庇うように背中に隠した。

「君達は、一体何をしているんだ!」

光輝が鋭い眼光で、受付チームと営業2課のアシスタント達を睨み据える。

「そこで全部聞いていたが、君達はうちの妹に随分と文句があるようだな。
文句は兄の俺が聞くから、最初からもう一度俺に言ってくれ。
残念だとか…いい気になるなとか…政略結婚を取り消せとか…散々言っていたよな。
なんなら社長室に場所を移して、親の前で話を聞かせて貰おうか?」

斎藤紫織以外の私に詰め寄っていた人達の顔色が総じて青く変わった。

大河と光輝が現れたのを見た瞬間から顔は青かったのだが、社長室と聞いて唇まで青くなってしまっていた。

「光輝…」

大河の低い声が響く。こんなに怒っている大河を私は見た事がない。

「こんな奴らの文句なんか…聞いてやる事はない…」

大河は私の腕を抑えていない方の手でスマホを取り出すと電話をし始めた。

「皆川…俺。…悪いけど…2課のアシスタント…児島、木村、田中の3人って、仕事上必要か?ちょっとみんなに訊いてみて…」

通話をスピーカーにして営業アシの人達の方に向けた。

電話の向こうで皆川主任が…。

『はい!みんなちょっと集合〜!課長から現在の2課のアシについてどう思うかって質問があったんだけど、どう思う?あの人達、必要か不必要か簡潔に答えて〜』

『簡潔にっスか?え?今居ないですよね?ってか、いつも居ないか…』

『大概あの人達、一日中給湯室でお喋りしてるか、トイレで化粧直してますからね…』

『面倒臭い仕事を頼もうとすると睨まれる…』

『16時以降に仕事を頼んでも断られるよ。合コンあるから定時で帰るってさ。毎日』

『はっきり言って1課のアシと能力的にも性格的にも雲泥の差!』

『怖いし…役に立たないし…』

『エリートでイケメンの知り合いを呼んで合コンを企画しろって、毎日煩いです』

『席に珍しくいる時も、ずっと水島課長の顔を見てるだけだよ』

『あ!俺あの人達に仕事を頼んだ事無いです。自分でやった方が数万倍早いんで…』

『じゃ結論として…必要?不必要?』

『『不必要!』』

『ってか本当に要らないから、ちゃんと働いてくれる人を早く入れて下さいって、前からずっとお願いしてるじゃないですか〜』

『『賛成〜!』』

『課長…という事です。あと俺も不必要に1票ですよ。今週中に派遣を3人頼んでおきます。仕事のできる人を…。だから安心して好きにやっちゃって下さい』

「了解…」

誰も一言も発しない…。

「だとさ…。良かったな…必要とされていなくて」

青かった営業アシの人達の顔が、電話の向こうの話を聞いているうちにどんどん真っ赤になって…大河が電話を切りそう言うと、3人とも下を向いて俯いてしまった。

凄い!
3人一気に辞めても仕事が全く滞らないなんて!

私も仕事を頑張ってしよう…。
同僚にあんな風に揃って不必要だなんて言われたら、きっと3年は立ち直れない。
毎晩夢に見てうなされそうだ…。


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