心、理、初
誕生日プレゼント、心の好きな人
○二階の秘密の部屋(夜)
心「ごめんね……。私の誕生日を祝おうとしてくれたのに……」
心は泣き止むと、顔を上げて、窓を見つめながら言う。
理也「謝らなくていい。俺も初も怒ってない」
心「本当は分かってるんだ……。パパがもう戻らないって……。部屋を用意しても意味ないって……。三人で…私の誕生日を祝えないって……。諦めなきゃ……いけないんだって……」
心の右目から一筋の涙が流れる。
理也が左手の親指で心の涙を拭う。
理也「無理に諦めようとしなくていい。諦めたくないなら、それでいいから…」
心「辺寺……」
心が隣に居る辺寺を見つめる。
理也「リビングに戻ろう…。店長と初が待ってる……」
心「うん……」
心が頷く。

○二階の廊下(夜)
リビングのふすまの前で心と理也が立っている。
理也「ケーキ食べろよ。プレゼント、受けとれよ」
心「プレゼント…あるの?」
心が驚いた顔をする。
理也「当たり前だろ。ほら、中入れよ」
心「うん…」
心は目の前にあるふすまの取手の部分に手をかける。その時に背後で人が通るのを感じて見ると、理也が部屋がある方に廊下を歩いていた。
心「辺寺は中に入らないの?」
理也「俺の事は気にしないで、さっさと中に入れ。店長と初が待ってる」
理也は後ろを振り向かずに言うと、理也の部屋の前まで行き、鍵でドアを開けて、部屋の中に入っていった。
心「プレゼント…直接渡してくれないわけ?」
心はふすまを開けて、リビングに入る。

○二階のリビング(夜)
心「これって……」
心はプレゼントととして渡された白いパックの中身を見て驚く。
初「今日の休憩時間に理也と色々見て、プレゼントを何にするか考えたんだけど、これが良いんじゃないかって。
心ちゃん。カレー好きでしょ?」
心「うん。好き」
心(だから、理也は中に入らなかったんだ……)
心の父「良かったね。心ちゃん……」
心の右隣に座っている心の父。
初「店長の分も買ったんです。今、下から取って来ますね」
心の向かいに座っていた初が立ち上がる。
心「初くん。初くんと辺寺の夕食は?」

○二階の廊下(夜)
心は理也の部屋の前に来ると、コン、コンと二回ドアをノックする。そして、ドアが開き、私服に着替えている理也が姿を見せる。
理也「新谷」
心「夕食はお父さんにミートスパゲッティを作ってもらってる。もちろん、初くんの分もね。
プレゼント…ありがとう」
理也「全部、食べたか?」
心「うん。すごく美味しかった」
理也「そうか……良かった。好きな物が良いと思ったからさ……」
心「私がカレー以外に好きな物は?」
理也「それは……」
理也が心から目を逸らす。
心「オレンジジュース……。店のメニューにも載ってるじゃん……」
心がしょんぼりする。
理也「好きな人なら、二人知ってる! 店長とパパだろ!!」
理也が慌てたように言う。
心「初くんも好きだよ」
理也「あっ、初…」
心「辺寺も好き」
心と理也の目が合う。
心は理也から視線を外すと、一階から上がってきた心の父に気づく。
心「夕食出来たみたい。リビングに」
心の両手を理也の両手が掴んで、心に少し近づく。
理也「キスしたら…ダメ…なんだよな?」
理也が心を見つめる。
心「ダメ…」
心(じゃない)
心の父「心ちゃーん。夕食出来たよー」
心の父が遠くから大きな声で叫んでいる。
心「ダメ! 手を離して!!」
理也が掴んでいた心の両手を離す。
心「行こう……」
心がリビングに向かって、廊下を歩いていく。
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