心、理、初
少し変わっても、全部は変わらない
○二階の秘密の部屋(夜)
心が暗い部屋で、畳の上で横になっている。
心(パパ……。パパが変わってしまったのは…私のせいでお父さんと別れたから? だから、私の事…嫌いになった?)
心「パパ……」
泣きそうな心のお腹の音がグーと鳴る。
心「お腹空くね……」
心(パパが居なくなった時も鳴ってたな)
心は起き上がる。
心「食べるか……」
心(食べた後に、思いっきり泣こう……)
心が秘密の部屋のドアまで行くと、中からかけてた鍵を解除して、ドアを開いて出ようとする。
心「辺寺?」

○二階の廊下(夜)
理也が秘密の部屋のドアの側に座っている。
理也「意外と早かったな」
理也は心に気付くと立ち上がり、隣に置いていた二つのサンドイッチが置かれてる皿と小さい紙パックのオレンジジュースがのせてあるおぼんを持って、心に見せる。
理也「前にサンドイッチが食べたいって言ってただろ?」

○二階の秘密の部屋(夜)
電気をつけて、部屋の真ん中で心と理也が座っている。
心「ねぇ、このサンドイッチに挟んであるのは何?」
サンドイッチに茶色のものが挟んである。
理也「変な物じゃないから、食べてみろ」
心「うん……。いただきます…」
心はサンドイッチを一つ手に取ると、一口食べる。
心「これ……カレーだ!!」
理也「そう。カレーサンド。美味しいか?」
心「うん。美味しい! カレーサンドなんて初めて……」
心(カレー……)
心「辺寺……大丈夫なの? カレー……」
心(カレーを見たらダメなんじゃ……)
理也がカレーサンドを見る。
理也「大丈夫だ……。全然気づかなかった。新谷が喜ぶ事しか考えてなかったから……」
心は理也から目線を逸らす。
心「じゃあ……もうカレーが大丈夫になったって事だよね?」
理也「どうだろう……。このカレーサンドのカレーは少ししか見えてないから……。多いのは……まだ無理じゃないかと思う」
心「そう……だね」
心(友達の事を忘れるわけない……)
理也「そんな簡単には……変わらないよ。
俺の親父もそうだよ。新谷を今も大事に思ってる」
心「私を大事に思ってたら…あんな事言わないよ」
理也「新谷はずっとパパが戻って来る事を願ってたんだよな?」
心「うん……」
理也「でも、戻れないよな。俺の親父になってるから」
心「そう……だね」
理也「親父……。パパは……もう自分を待っていて欲しくなかったんだよ……。その願いを叶えてあげられないから……」
心「そう………だね」
理也「三月九日。新谷に関係があるだろ?」
心「三月…九日……」
理也「毎年その日に親父は自分の書斎にタンポポの花束を飾るんだ」
心「タンポポの花束って……」

○(回想)十四年前に住んでいた家(朝)
心のパパ「タンポポの花束?」
心「うん。私、タンポポが大好きだから。小学校の卒業式にたくさん貰いたい!!」
心のパパはかがむと、心の頭を撫でる。
心のパパ「分かった。持っていくね」
心「うん!!」
(回想終了)

○二階の秘密の部屋(夜)
心の両目から涙が出てくる。
心「パパ……」
心(覚えてたんだね……)
理也が心の頭を撫でる。
心は泣き続ける。

○二階の心の部屋(夜)
心がベットの上で、スマホで電話をかけている。
心の左手には電話番号が書かれた白い紙が握られている。
心「あの、心です。
明日会えませんか?」
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