心、理、初
心のパパとの最後の誕生日祝い
○カフェ心貴呂の閉店後(夜)
一番テーブルに心、心の父、テーブルを挟んだ向かいに理也の父、理也が座っている。
初はキッチンに立って、四人を見ている。
心「今日は来てくれてありがとう。パパ」
理也の父「心。私が昨日言っただろ」
心「辺寺の父親、分かってるよ。でも、今は……今だけは、私のパパで居て欲しい……」
理也の父「駄目だ」
理也「親父。今だけだ」
理也は理也の父と見つめ合う。
初が火のついたロウソクを一本立てたいちごのショートケーキが乗っている皿を一番テーブルまで持ってきて、心の目の前に置く。
心「ありがとう、初くん」
初は心の側に立つ。
理也の父が運ばれてきたいちごのショートケーキを見ている。
心「パパはいちごのショートケーキ好きだったよね……。私がいちごをあげると喜ぶから……。お父さんから聞いた……」
心の父「本当は貴葉は甘い物苦手だもんね……」
理也「確かに親父が甘い物を食べている所を見た事がないです」
心「私のために……ありがとう。パパ……」
理也の父「心の……心ちゃんのためじゃないよ。自分が心ちゃんの笑顔を見たかったから。自分のためだよ」
心の父「貴葉……」
心「パパ…。私、パパが居なくなってからずっと誕生日を祝ってもらってないの。パパと約束したから……」
心の両目に涙が浮かぶ。
理也の父「約束って……。毎年誕生日は三人で祝おうって…」
心「うん……。ずっと……破れなかったんだ……」
心の両目から涙がこぼれ落ちる。
心の隣に座っている心の父が心の背中を通って、左手で心の左肩を掴む。
心「だから……今日、パパに祝って欲しい。誕生日は過ぎちゃったけど……パパなのは今だけだから。最後に……祝って欲しい……」
理也の父「分かった……。祝おう……」
心「ありがとう。パパ……」
初「心ちゃん。涙拭いて……」
初が心に薄紫のハンカチを差し出す。
心「ありがとう。初くん……」
心は初からハンカチを受けとると、涙を拭く。
心「……よし。お願いします!」
心の父と理也の父が見つめ合う。
心の父「せーの!」
心の父・理也の父「ハッピバースデー、トゥーユー。ハッピバースデー、トゥーユー。ハッピバースデー、ディア…心ちゃーん。ハッピバースデー、トゥーユー」
心がいちごのショートケーキのロウソクの火を吹いて消す。
心の父、理也の父が拍手をする。
心「大好きだよ。お父さん……」
心が隣に居る心の父を見る。
心の父「私も心ちゃんが大好きだよ……」
心「大好きだよ。パパ……。パパじゃなくなるけどずっと……大好きだよ……」
心が理也の父を見る。
理也の父「私も……心ちゃんが大好きだよ……。ずっと、ずっと、大好きだ」
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