ことほぎのきみへ
……
……


椅子に座って貰った絵を眺めながら
昼間のひさとさんのあの話を思い返す


きっと、聞いたのはほんの一部

だけどそれでも分かった


……矢那さんが言っていた通り
ひさとさんは面倒なものを抱えてる


過剰な期待
欲しくもない評価や価値
絵描き……画家としての人生


人によっては歓喜するようなものでも
それがただの枷にしか思えない人もいる

煩わしくて仕方なくて

それなのに

望んでなくても
持って生まれてしまったから

それに気付いた周りは放って置いてくれない



ひさとさんが拒否しても
それでも周りはひさとさんを諦めなくて……


その才能と技術と、存在価値を



『……本当に、めんどくさい……』



…疲れたような顔を思い出して
自分のことのように辛くなる


………どうすれば、あの人をほんの少しでも楽にできる?


救われてばかりの私


あの人に返せるものがあるなら返したい

助けになれることがあるなら助けたい



「…」



…………幸せでいてもらいたい



あんな顔、見たくない


その内、押し潰されちゃうんじゃないかって
すごく不安になる

周りの人が、その声や環境が全部嫌になって
本当にひとりでいる事を選びそうで怖い


あんな、優しくてあったかい人が
そんな暗くて寂しい場所に行くのは嫌だ


ひとりになって欲しくない


……
……そう思って、はっとする



……
…………そっか

矢那さんもこんな気持ちだったんだ……


あの時の矢那さんの気持ちが
今、痛いくらいに分かる
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