溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
今まで専務は私のことを『雨宮さん』と呼んでいた。
小さな変化を見逃さない広海さんに、『菜々子』と呼んだ理由をどう説明するのだろうと息を潜めていると、寝室のドアがコンコンとノックされた。
「は、はい」
小さく返事をするとドアが開き、専務が顔を覗かせる。
「菜々子? 着替えは済んだ?」
「はい」
「それなら、出ておいで」
「……はい」
差し出された彼の手に自分の手を重ね、寝室から出た。
感のいい広海さんのことだ。専務が私の名前を呼び、彼の寝室から出てきたのを見れば、私たちの間になにがあったのかすぐに理解しただろう。
「広海さん、おはよう」
ボサボサの髪とシワがついてしまった服を、恥ずかしく思いつつ挨拶をした。けれど広海さんからの返事はない。
「俺たち、結婚を前提につき合い始めたんだ」
不機嫌そうに黙り込んだままの広海さんの前で、専務が私の腰に腕を回した。
たしかに私たちは、好きだという思いを伝え合った。でも彼が結婚を意識していたとは予想外。
「えっ?」
動揺しながら隣を見上げれば、優しい笑みを浮かべた専務と目が合った。
「俺はそのつもりだよ」
真摯な思いがうれしい。
瞬く間に喜びが胸いっぱいに広がり、彼と微笑み合った。
しかし夢見心地な気分も、広海さんのひと言で簡単に終わりを告げる。