家族


この人は強くなんかない

亜依はそう想った

強いんじゃない

我が子に不安な想いをさせない為に‥‥

踏ん張って

耐えて

笑って来たのだ

それがこの人の強さで

この人の美しさなのだ

何もかもが負けている

亜依はそう想った

「悟史さんの奥さんだった方は‥‥
とても素敵な方なんですね‥‥」

亜依は心の底から想った事を口にした

悟史は言葉もなかった

ただただ黙って二人を見ていた

亜沙美は恨み言や文句は総て飲み込んだ

謂えば‥‥後味の悪い想いしか残らないのを知っているからだ

口から出た『言葉』は何時か自分に跳ね返って来る言霊なのよ、だから言葉は考えて吐き出しなさい!

そう、母に言われ続けて来て育った

だから総ての言葉は飲み込む

もう不幸になりたくないから‥‥

跳ね返って来るなんて真っ平ごめんなのだ

「あなたも素敵な人よ
優しさが見ただけで解る‥悟史さんが何故あなたへ行ったのか‥‥これでスッキリしたわ」

「憎んで‥‥いないのですか?」

いっそ‥‥罵られた方が楽だった

いっそ‥‥返してくれと謂われた方が楽だった

「恨んでないと謂えば嘘になる
玲音のサッカーの試合も授業参観も‥‥あの人は一度も来てくれた事がないからね‥‥
玲音は週末に父親とボールを蹴った事がない
他所のお父さんは遊んでくれるのにね‥‥
あなたの所へ行ってるのは知っていたの
多分‥‥交際を始めた頃から知ってる
お子さんが生まれたのも知っているわ


< 36 / 53 >

この作品をシェア

pagetop