家族


私はあの人の会社にいた人間だからね、嫌でも耳に入って来るの‥‥
水上町から越して来たのも知っているわ
全部、親切な人が心配して教えてくれるからね‥‥要らないお節介だと想っていても、謂いたい奴はこっちの気持ちもお構い無しで『教えてあげる』と言う大義名分を掲げて来るものなのよ
だからね全部知っているの
知っていて私は‥‥玲音の為と言う大義名分を掲げていたの‥
玲音には父親が必要だと‥‥枷を嵌めていたの‥‥
だけどね玲音がもう良いって言ってくれたの
頑張って頑張って、奨学金を貰ってくれたから‥‥私も玲音の努力に報いなきゃって‥‥
全部終わらせて前へ進まなきゃって想ったの
ごめんね‥‥もっと早く悟史さんを解放してあげられば良かったのにね‥‥
そうしたら‥‥あなたも‥‥あなたの子も苦しまずに済んだのにね‥‥」

亜沙美はそう言い亜依の手を取り謝罪した

謝罪すべきは自分の方なのに‥

亜依は慌てて

「止めて下さい‥‥謝らねばならないのは私の方です
私は‥‥地味でなんの取り柄もない人間です
敷かれたレールの上を脱線する事なく進んで来ました
それが当たり前だと思っていました
そんな私がたった一度‥‥脱線したのは悟史さんとの愛でした
彼に奥さんがいるのは同僚の話で知っていました
知っていて私は‥‥悟史さんの手を取ってしまった
変わらない日常におこった変化を‥‥手放したくなかったのです‥‥
だけどその生活は‥‥あなた方の犠牲の上に成り立っているのだと解っていて‥‥
実際には解っていなかったのです
悟史さんが離婚するなんて‥‥想ってもいませんでした
ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥
死んでお詫びをせねばならないのですが‥‥私には護らねばならぬ子がいます‥‥」

亜依の言葉は嗚咽交りに続けられた

それを遮る様に亜沙美は

「謝罪は要らない
あなたの命なんてもっと要らないわ」と一蹴した


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