拾ったワンコが王子を連れて来た
生田さんは気にするなと言って、キスまでしようとしたから、いくらなんでもそれはまずいと思い、彼の口に手を当て阻止した。
「生田君、いつ真美さんの事お母様に紹介するの?」
お母様?
え? それは墓前にって事?
「今は、色々ごたついてますから、姉が旅館を正式に継いでからにします」
旅館…?
「ちょっと待って、生田さんのご実家って旅館なさってるんですか?
もしかして、ご両親はご健在なんですか?」
「え…あ…ん…」
生田さんの歯切れの悪い返事に、問い詰めようと思った時、ゼネラルマネージャーが話してくれた。
「あれ、君知らなかった?
稀一郎は、日本でも3本の指に入ると言われる程有名な、北陸の旅館の長男だよ?
毎年皇室の方々も、お泊まりにいらっしゃる程、由緒ある旅館だよ?」
えっえぇぇぇー!!…
って事は…
もしかしたら…もしかして…
「心配しなくても、僕は旅館は継がないよ?
SAKURAホテルに就職した時点で、親も諦めてるから?」と生田さんは言う。
そうなんだ…?
「じゃ、そろそろ用も済んだし、帰ろうか?」
「あっ、仕事!」
帰ろうかと言う生田さんの言葉に、今何時かと慌てて腕時計を見ると、もう既に出勤時間は過ぎている。
ヤバイ…
「慌てなくても、今日は休みにしてるんだろ?」と、ゼネラルマネージャーは聞く。
それに対して、私は大きく首を振る。
ここへ来る予定など無かったのに、休みにしてる訳が無い。今朝だって、出勤する気満々だったのだから…
「稀一郎の事だ、その辺は抜かりないだろ?」と言うゼネラルマネージャーに、生田さんは勿論と言う。
「生田さん…?」
「昨夜のうちに、シフトの変更済みだから心配無いよ?」
心配無いよって…そんな事して良いの?
「あ、柊真!
今夜、俺の代わりにフロント入ってくれ?」
「はぁ? なんで俺が!?」
「夜勤が、どうしても見つからなくてな?
お前には大きな貸があるし、真美を怖がらせた罰だよ!」
私を怖がらせた?
生田さんは、以前私をつけていた車はゼネラルマネージャーだと言う。
「えっ!?」
どうして?
「あれは…吊り橋効果ってやつで、稀一郎の為にやった事で…現に、木ノ実さんの気をひく事が出来たろ?」
ゼネラルマネージャーは、バツが悪そうにしながらも、説明してくれた。
それを聞いた総帥の奥様は、ゼネラルマネージャーを叱りつけた。
「柊真さん! 貴方はなんて事を…
兎に角、真美さんを怖がらせた事には間違い無いのですから、ちゃんと謝罪なさい!」
ゼネラルマネージャーは、いたずらが見つかり、母親に怒られる子供の様に小さくなって、私へ謝ってくれた。