一筆恋々

【二月一日 手鞠より八束への手紙】


急啓
ご無沙汰いたしております。
日頃の八束さまの姉への労りに、心より感謝を申し上げます。

こうして突然お手紙を差し上げましたのは、駒子さんのご縁談につきまして、悲しい事実がわかったからです。
同封の写真をご覧になって、八束さまならどう思われるでしょうか。
藤枝さんと親しくされているこの女性は新橋の芸妓だそうです。
この方以外に、わたしと駒子さんの共通の友人である滝口菜々子さんが、洋装の女性と藤枝さんが親しげにしているところを見かけたそうですし、それさえも藤枝さんの交際の一部であるようです。
こんなに派手な振る舞いをなさっているのですから、もしかして藤枝さんの悪評は、八束さまのお耳にも届いていらっしゃるのではないですか?

わたしは姉に幸せになってほしいと思い、八束さまと縁が繋がるお手伝いをいたしました。
ですから、姉の笑顔を見ると本当にしあわせです。
姉も楽しいことばかりではないでしょうけれど、好きな方に嫁せたからこそ乗り越えられるのだと思います。

この方に大切な妹さんを差し上げられますか?
わたしのように事情があるならともかく、そうでないなら、結婚を急ぐこともないと思うのです。
寿退学が誉れであったのはもう昔の話。
大切なご縁は、ゆっくり選ばれた方がよろしいのではないでしょうか。

差し出がましいこととは存じますが、どうかご賢明な判断をお願いいたします。
そして、英子爵を説得してくださいませ。
草々


大正十年二月一日
春日井 手鞠
英 八束様


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