一筆恋々

【九月十五日 手鞠より駒子への手紙】


こんにちは。
わたしがぼんやりして先生に怒られることはよくありますが、駒子さんも同じなんて珍しいですね。
今日は立たされていても心強く、先生のお小言も気になりませんでした。

何をそんなにお悩みかと思えば、菊田さんへのお手紙のことだったのですね。
そのお気持ちよくわかります。
わたしも書いては気に入らない、書いては気に入らないと、先日駒子さんと一緒に買った便箋は、とうとう使い切ってしまいました。
また一緒に買いに参りましょう。

けれど、見せていただいたお手紙にはとてもおどろきました。
「素直にありのままを書いた」と駒子さんは言うけれど、あんなこと書いてしまって大丈夫なのですか?
菊田さんはおどろかれないでしょうか。
菜々子さんも「好きな人へのお手紙なら、このくらい情熱的でなければ」なんて言っていたけれど、わたしは思い出すだけで顔が熱くなります。

静寂さんからのお手紙はいつも簡素なものです。
頭の中がすっきりと整理されているのでしょう。
わたしのように余計なことをぐちゃぐちゃ書き散らしたりなさいません。
それでいて、便箋は秋を思わせるだいだいいろの線が入っていて、そういう心配りも忘れない方なのです。

駒子さんのお手紙にならって試みに自分の気持ちを書いてみたのですが、とても出せません。
恥ずかしくて読み返すことさえできません。
やはりわたしはいつも通り、他愛ないことを書くのがせいぜいです。

駒子さんと八束さまはやはりご兄妹なのですね。
その情熱の在り方を見て、初めて感じました。
かしこ


大正九年九月十五日
迷える手鞠
情熱の人、駒子さま


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