独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 詩穂がメイク直しを終えてトイレから出たとき、窓辺で夜景を眺めていたスーツの男性が振り返った。

「じゃあ、帰りましょう――」

 か、と言いかけた口のまま、男性が固まった。その驚いた顔を見て、詩穂は信じられない思いで目を見開く。

「弘哉さん……」

 詩穂の口からかすれた声が漏れた。

 まさかこんなところで会うなんて。

「詩穂」

 弘哉の顔が今にも泣き出しそうに歪む。

「詩穂!」

 弘哉はいきなり詩穂の右手首を握ったかと思うと、エレベーターとは逆の方向へと歩き出した。

「えっ、なんですか、離してください!」

 詩穂は足を突っ張らせて動くまいとしたが、必死の表情の弘哉にずるずると引っ張られていく。

 バーの前を通り過ぎ、非常扉の前のひとけのない場所で弘哉が足を止めた。

「いったいなんなんですかっ」

 詩穂は弘哉の手を振り払おうとしたが、彼は詩穂の右手首を強く握ったまま、感極まった表情で言う。

「詩穂、会いたかった」
「は? なに言ってるんですか」
「詩穂が会社を辞めたのは、美月(みつき)さんと婚約した俺を見たくなかったからなんだろう? そこまで俺のことを想ってくれていたなんて……。もう少ししたら美月さんと結婚式を挙げるから、それまで待っててくれ」
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