独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「だから、私とあなたはもう終わったんです! 私が会社を辞めたのは、そうやってあなたがいつまでも私に執着するからなんですっ」
「そんなこと言わないでくれ。俺は詩穂じゃなきゃダメなんだ。美月さんは……俺より十歳も年上で……。美人なんだが、気位は高いし性格はきついし……。会社のためとはいえ、一緒にいると本当に息が詰まる。しんどいんだ。詩穂みたいに控えめでしとやかで、俺を立てて尽くしてくれる女性の方がいい」

 最後の言葉に、詩穂はハッとした。なにをやってもうまくいかなかった自分に居場所をくれたことが嬉しくて、弘哉と付き合っていた頃、彼好みの女性になろうと一生懸命努力していた。自分を偽り続けた結果、こんな事態を招いたのだ。

 本当の詩穂は控えめでもなければ、男性に尽くすタイプでもない。

「私はそんな女じゃ――」

 詩穂が言いかけたとき、ハイヒールの高い音を響かせて、ひとりの女性が近づいてきた。

「弘哉くん?」

 さっきトイレで一緒になった、ネイビーのワンピースを着たロングヘアの女性だ。

「あ、み、美月さん」

 弘哉がうろたえた声を出した。動揺しすぎたのか、詩穂の手首を離すどころか、手首を握る手にますます力が入る。
< 68 / 217 >

この作品をシェア

pagetop