独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 こんなところを見られたらまずいに決まってる!

 詩穂は懸命に弘哉の手を振りほどこうとするが、彼の手は硬直したように動かない。

「この人は誰?」

 美月は弘哉の隣で足を止め、鋭い目で詩穂を見た。

「あの、私、以前、CBエージェンシーで働いていた――」

 名乗りかけたとき、バーの方から男性の明るい声が聞こえてきた。

「詩穂、そんなところにいたのか」

 驚いてそっちを見ると、蓮斗が歩いてくる。にこにこ笑いながら詩穂に近づき、詩穂の手首を握ったままの弘哉の手首を掴んだ。そうして笑顔のまま、ギリッと力を込める。

「……っ」

 弘哉が目を見開き、それと同時に詩穂の手を握る彼の力が緩んで、詩穂は手をさっと引き抜いた。

 しかし、弘哉の手から逃れたとはいえ、目の前の美月は怒りの形相をしている。婚約者がほかの女性の手を握っていたら、そうなるのも無理はないだろう。

 なんとか場を取り繕うような言葉を探していると、蓮斗が詩穂の肩に左手を回した。

「待たせてごめん。怒ってない?」

 そう言って詩穂の耳に唇を寄せて、「大丈夫。俺に任せろ」とささやいた。詩穂が蓮斗を見ると、彼は小さく頷き、おもむろに弘哉と美月を見る。
< 69 / 217 >

この作品をシェア

pagetop