俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
悪いことが起きるときというのは、案外前兆がどこかにあったりするものだ。
胸に沸いたモヤモヤがその前兆のような予感がしたのは、夜六時過ぎ。そろそろ帰ろうとクリエイティブルームを出たときだった。
「わっ……と」
「あ、すみません!」
部屋を出た私は廊下を走ってきたスーツ姿の社員とぶつかり、後ろに数歩よろけた。
「すみません、大丈夫ですか」
困り顔で謝っているのは、今年度の新人の営業部の子だ。両手に紅白の水引が掛かった日本酒の一升瓶を二本抱えている。
「私は大丈夫だけど、そっちは大丈夫? それ贈答品だよね、傷とか平気?」
そう聞くと営業部の子は慌てて日本酒の瓶を確認し、「大丈夫……みたいです」と安堵の息を吐いた。
「本当にすみません。新年パーティー行くのに、任されてた手土産持っていくの忘れちゃってて、慌てて取りにきたんで」
ペコペコと頭を下げる彼の話を聞きながら、(ああ、周防さんが言ってた取引先の新年会か)と納得する。
「割れものだから気をつけてね」
そう言って手を振ると彼は最後にもう一礼してから、今度は走らず早歩きで去っていこうとした。
私もその場から離れようとしたけれど、ふと、なんとなく気になってその背に声をかける。
「あの……今日の新年会の取引先って、どこか聞いてもいい?」
営業部の子は足を止めて振り返ると、「芸能関係です。ドリームキーパー事務所が主催の」と教えてくれた。
私は「ありがとう」と手を振りながら、嫌な予感が忍び足で迫ってくるのを感じる。
ドリームキーパー芸能事務所……璃々の所属事務所だ。