俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
 
惚れ薬のせいだとわかっていても、私に向かって『かわいい』なんて言う周防さんには慣れない。凄まじい違和感に困惑しながら、噴き出さずにこらえたものの気管にワインが入って小さくむせる。すると。

「大丈夫か」

なんと周防さんが席を立ち、私の背を撫でながら口もとをハンカチで拭ってくれた。

「だ、大丈夫! 大丈夫ですから!」

いくら私に惚れている状態だとはいえ、これは過保護なのではないかとおののく。

恋人というものが出来たことがないので分からないのだけれど、一般的に彼氏というのはこんなにも過剰に心配してくれるものなのだろうか。

何にせよ恥ずかしくて必死に周防さんの体を押しのけると、彼は「世話が焼けるな」と、やっぱり楽しそうに笑って向かいの席へ戻っていった。

(ヤバい……このままじゃ周防さんのペースに乗せられちゃう。いい雰囲気になる前にさっさと切り上げなくちゃ)

私は水をひと口飲むと、改めて気を引き締める。今夜、一番危惧すべきこと。それは彼からの告白やベッドへのお誘いだ。

お断りしたいのはもちろんだけれど、そうすると周防さんの心臓が止まってしまいかねない。彼を死なせないためにも、私の貞操を守るためにも、これ以上いい雰囲気にはさせず、何事もないまま別れなければならないのだ。
 
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