「ねぇ、パク。そろそろ、村に戻らないと・・・。」
「そうだね。ミルルのお父さんも心配してるはずだからね。あのふたりに、僕からそう言うよ。」
「ありがとう。じゃ、私は部屋に戻って準備してくるね。」
ふたりに聞こえないように、そんな事を話した。
「ごちそうさまでした。」
ミルルが部屋を出ると、パクが口を開いた。
「あの・・・。」
「何?」
そのやさしい顔を見ると、決心が揺らぎそうだった。でも、ミルルの事を考えると、言わなければいけなかった。
「僕達、村に帰ろうと思います。」
「えっ、村に・・・。」
記憶はなくても、いつまでもこの時間が続く、そう考えていたロドには、つらすぎる一言だった。
「でも、なんで?そんな急に・・・。」
「ミルルのお父さんが心配していると思うんです。助けてもらってから、何日も経っているから。その間、いろいろとしてくれてありがとうございました。」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
―――ヤンダルの事は覚えているのね。でも、私達の事は思い出してくれないんだ。
寂しさが、こみ上げてきた。
“私も一緒に村について行く。”
こう言えたら、どんなに楽だったろう。しかし、この言葉はテミロに止められていた。
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