『またね。』
「…あ、これ…」
輝の部屋の端の方に置かれた大きなキャンパス。
「…うん、新しい絵描こうと思ってね。」
新しい絵…
「見てもいいよ、見る?
ほとんど完成してるから。」
輝が絵にかけてあった布を取る。
私はコーヒーを机に置いて輝の所に行く。
「…わあっ…」
輝の絵はやっぱり神秘的ですごい。
「…」
これは…空?
背景が青から黒にグラデーションで変わって…
青い空から宇宙空間に変わっていく。
境目辺りに天使が居る。
何かを大事そうに抱えて輝いている。
「…まだ、途中なんだ。」
「え?」
…この綺麗な絵がまだ…途中?
「天使の顔、まだ描いてないんだ。」
…あ、ほんとだ…
よく見ると天使の顔は無くて普通の肌色だ…
「…顔、どんなのにしたらいいか分からなくて…」
輝がノートを開く。
いつもアイディアを描いているあのノートだ。
沢山天使の顔が書いてある。
「…あ」
「ん?」
「これ、すき…」
目は閉じてて泣いているのに口元は笑ってる…
まるで大切な何かを失ったような…
でも、その欠片を大切に抱きしめて『またね。』って言ってるみたいだ。
「…輝、この顔…」
「それ、気に入ったの?」
輝は鉛筆を持っている。
「うん。すごい好き。」
「分かった。」
輝は美術室の時より真剣な顔をして表情を描く。
…好きだよ、輝…
大好きなんだよ…
「…よし、あとは筆で仕上げるだけだ。」
「この絵は…誰のため?」
「…考えてなかったけど、鈴を見てたらこの絵が描きたいって思ったんだ。」
私…?
輝は優しく微笑んで鉛筆を置く。
…ダメだ、私…
もう抑えられない。
輝へのこの想い、抑えられない。
「…輝…」
「ん?」
輝はきっと、そういうふうに見てないと思うけど、私のわがまま…言わせて?

「私、輝のことが好き。」

…ストレートな私の言葉。
叶わない…私の想い。
振られたら振られたで諦めるから…
誰もこんな病気持ちの女からこんなこと言われて嬉しいはずないよ…
分かってるのに輝なら受け入れてくれるなんて…
なんて甘い考え…
「…輝?」
何も言わない輝。
私は俯いた顔を上げる。
「…えっ…」
輝の顔は真っ赤だった。
制服の袖で顔を隠す輝。
「…っ…」
輝は私の目を見ようとしない。
「…鈴…」
輝は私と視線をぎこちなく合わせる。
その瞳は戸惑いがあった。
「…僕…」
分かってるから…
どうせ死んじゃう私のこと。
輝は忘れちゃう。
「…僕も鈴のこと、すきだよ…」
「えっ…」
「…本当……」
輝の思いがけない言葉に驚く私。
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