『またね。』
「もうすぐだからね。」
僕は鈴に微笑んでペダルを漕ぐ。
鈴の家が見えてきた。
鈴の母親と父親が外にいる。
…迎えにでも出てきてくれたんだろうか…
「おかえり〜鈴。」
「ただいまー!」
鈴が僕の後ろから降りて母親の元に行く。
僕は自転車の向きを変えて元来た道を戻ろうとする。
「卯月くん、ありがとうね。」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございます。」
自転車に跨って僕はペダルを踏み込む。
鈴が僕にずっと笑顔で手を振ってくれる。
微笑みながら僕も手を振り返す。
真っ直ぐ前を向いてペダルを踏む。
…そう言えば絵の具の黒が切れかかっていたっけ…
まだ時間あるし、買いに行こうかな。
角を曲がって商店街に行く。
比較的大きな商店街。
車の行き来も多い。
横断歩道で降りて僕は渡る。
目の前には文房具店。
「危ない!!」
キキーーーッ!!!
…嘘だろ…
ードン!
…しくじった…
「兄ちゃん!大丈夫か!」
…生きてる…
良かった…
僕とぶつかった乗用車のおじさんが出てくる。
助手席から降りてきた女性も僕を見て心配そうに駆け寄る。
「…えっ…」
痛みに耐えながら僕はそろそろ立ち上がる。
「兄ちゃん、大丈夫か?」
「…う〜…はい。」
「あなた、もしかして…」
女性が僕の顔をまじまじと見つめる。
「…?」
「卯月、輝?」
…なんで、僕の名前…
「輝、なのね?!」
…誰だ。
ぶつけたショックでズキズキする頭、動かない左腕。
…これは…折れたか…?
右手で頭をおさえながら僕はカバンを探す。
…自転車は恐らくもう使えないだろう…
「…」
「私、あなたの母親の梨華です。」
「…え?」
…この人が、僕の母さん…?
「とりあえず、病院行きましょう?
あなた、お願いしてもいい?」
「もちろんだ、元はと言えば俺がよそ見してたせいだからな。」
…梨華さんと恐らくその旦那さん。
父さんと同じ歳位のちょっといかつい人。
「…」
「輝、あなた左腕…」
「…多分、折れてます。」
…絵の具…
また買いにこよう。
「もうちょっとだ!兄ちゃん!死ぬなよ!」
「勝手に輝殺さないで!」
梨華さんと旦那さん。
仲良いのがわかる。
「輝、痛い?」
…なんでだろう…
僕のことなんか忘れていると思っていた母さん。
僕のことなんか知らないと思ってた…
「…和樹が亡くなってから、輝はどうなったんだろう…ってずっと考えてたの…」
和樹…父さんの名前だ…
…本当にこの人は僕の母さんなんだ…
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