『またね。』
私はもう一度駅に向かって電車に飛び乗る。
隣町まで着いて私は改札から飛び出す。
「…えっと…」
先生は丁寧に地図まで書いてくれた。
駅から西に向かって…
…この理髪店をすぎて…
この家かな?
苗字は…
“池田”。
ここだ。
車は…停まってる。
ーピンポーン…
私はインターホンを押してから呼吸を整える。
「はい。」
玄関が開いて中から女性が出てくる。
…梨華さんだ。
手術の時に見たのが初めてだった。
「…あなた、もしかして…」
梨華さんは私を見て驚いた顔をする。
「…佐倉、鈴ちゃん?」
…覚えててくれた。
忘れられていると思ってたのに…
「そう、です…
すみません、急に…」
「いいのよ。上がって。」
梨華さんは私をリビングに通してソファに腰掛ける。
「…あの、今更なんですけど…」
「ん?」
…輝と顔が似てる…
あ、親子なんだからあたりまえか…
「輝の…大事な息子である…輝の命を奪って申し訳ありません…」
「ふふっ、何を言うのかと思ったら…」
思っていた答えと全く違う言葉に私は驚く。
「輝が選んだ人であり、輝が命を賭けて守った人だもの。奪った、は違うよ。
あの子はあの子なりにあなたに愛を伝えたかっただけよ。」
…ああ。
輝はきっとお母さんに似たんだ。
優しくて、笑った時に目尻がキュってなるの。
「…私を、恨んでないんですか?」
…輝の命を奪って、のうのうと暮らしている私を…
「どうして?恨む理由がないよ。」
梨華さんは優しく微笑んで私の隣に来る。
「その件については鈴ちゃんのご両親からもこれでもか、と言うくらい頭を下げられたわ。」
…いつの間に…
「だから、鈴ちゃんが気にすること、ないよ。」
梨華さんは私を優しく抱きしめてくれる。
「…っ…
…輝を…産んでくれて、ありがとうございました…」
私を優しく包んでくれた優しい輝。
そして、そんな輝のお母さん。
…本当にありがとうございました…
【佐倉鈴side END】

【磯ヶ谷武瑠side】
…鈴ちゃんにかっこ悪いところばかり見せちまったなあ…
「…はあ…」
「おはよう磯ヶ谷くん。」
下駄箱で鈴ちゃんに会った。
何かが吹っ切れたような、そんな顔だった。
「…楽しかったねえ。」
下駄箱で靴を履き替えながら鈴ちゃんは俺に視線を向ける。
…隣のクラスなのが寂しい。
クラスまでの道のりを歩きながら鈴ちゃんは遊園地でのことについて楽しそうに話す。
「…でね。」
鈴ちゃんはカバンの中をゴソゴソする。
「これ、渡しそびれちゃってて。」
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