『またね。』
鈴ちゃんが手渡してきてくれた小さめの袋。
中から取り出すと赤と黒と青の3色で編んであるリングだった。
…気が利く…
俺なんにも買ってないよ…
「…ありがとう。」
「いえいえ〜」
鈴ちゃんはニコニコして手を振ってから隣のクラスに入って行った。
俺はリングを腕につけて少しニヤける。
…鈴ちゃん、少しスッキリした顔してたな…
何かあったのかな?

「ー…磯ヶ谷くん!」
「ん?」
「…んー…磯ヶ谷くん…武瑠くん…武瑠…」
顔をしかめて俺の名前を呼ぶ鈴ちゃん。
「鈴ちゃん?」
「…うん、武瑠にしよう。」
鈴ちゃんは俺の手を取って少し引く。
「あのね、よりたいところがあるんだ。」
俺は鈴ちゃんに引かれるがまま歩く。
…寄りたいところ…
想像つかないや…
「あ、ここなの!」
「…何かあったの?」
来たのは近くの河川敷。
鈴ちゃんはストンと座って川を見つめる。
「…あのね、武瑠。」
鈴ちゃんは深呼吸してから俺を見る。
自分の首の後ろに手を回して鈴ちゃんはネックレスを取る。
…あのネックレスは…
卯月とお揃いの…
「…もう、輝を忘れることは、出来ない。」
「…うん。」
「でも、この想いは忘れることにする。」
鈴ちゃんはネックレスを財布の中にしまって俺を見る。
「…私、武瑠のこと、好き。」
「え?!」
「あ、まだ好きじゃ、ないんだけど…
もう好きになるのも時間の問題なの。」
鈴ちゃんの目は真っ直ぐで、真剣で…
嘘では、ない。
「…改めて、言うね。
武瑠、私と、付き合ってください。」
1度目は俺から告白。
2度目は鈴ちゃんからの申し出。
…断る理由なんてない。
「…もちろん。ありがとう…」
鈴ちゃんはにっこり笑って俺に飛びつく。
「武瑠ー!」
「…おっと…」
鈴ちゃんは軽い。
俺の上に馬乗りになって鈴ちゃんは微笑む。
「好きだよ。」
「…俺も。」
鈴ちゃんの顔はほんのり赤くて。
直ぐに照れてしまうところが可愛い。
可愛くて優しい。
とっても好きな人がいる癖に俺のところに来てくれた。
鈴ちゃんが俺を好きでいてくれる限り、俺はちゃんと見守るから。
傍にいさせてくれ。


「ー…たーけーるー」
「ん?」
「…お腹いたーい…」
結婚して2年。
高校卒業してから結婚した俺と鈴ちゃん。
お腹がこれでもかと言うくらい膨らんでいる鈴ちゃん。
「病院行く?」
「陣痛間隔短くないよお…」
鈴ちゃんの顔は痛みに歪んでいる。
「行くだけ行こうか。」
…臨月だもんね。
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