すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
どれくらい眠っていたのか、藍里が重い瞼を持ち上げて目を開けると、消灯時間が過ぎているのか部屋は暗くなっていた。

眠っている時に何度か起こされて体調を聞かれたり、トイレに行ってみてと言われたり、車椅子に座らされたり、簡単な部屋の説明を受けたりした気がするがあまり覚えていない。

ただただ疲労が激しく、体が思うように動かない。
本当に全ての力を出しきったのだと、眠りにつくまで胸の上にいた赤ちゃんを思い出して藍里はふっと微笑んだ。

「ご機嫌だな」

「っ……!」

近くから声が聞こえ、藍里が目を丸くすると首を横に向けた。
そこには椅子に腰かけた智大が月明かりに照らされて、慈愛に満ちた表情で藍里を見つめていた。

「と、もく……」

「出産、二日かかったんだって?間に合わなくて悪かったな」

「ううん……智君も……任務……テレビで見てて……」

「ああ、事件が解決したのとほぼ同時に生まれたって聞いた」

そっと智大が手を伸ばしてきたので、藍里も布団の中に入っていた手を抜き出して手を伸ばす。
そっと手を繋がれ、指を絡めるように握られると、藍里は智大から感じる温もりに安堵して涙が溢れだした。

「智君……赤ちゃん……」

「ああ、よく頑張ったな」

「違……赤ちゃんがたくさん頑張ってくれて……赤ちゃん、小さくて、可愛くて……っ……」

「そうか。今ここに着いたばかりでまだ会えてないんだ。明日会うのが楽しみだ」

「智君に、やっぱり似てたの……」

「いや、絶対に藍里に似てる」

「っ……見てないのに……?」

「見てなくても分かる」

智大がコツンと額を合わせてくる。
優しい声色に温もりと愛情、全てが藍里の疲れきった体に染み渡るように馴染んでいく。

声もなく体を震わせて涙を流す藍里に、智大はずっと労りの言葉をかけ続けていた。
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