生簀の恋は青い空を知っているか。

強敵と浅黄さんが言うほどだ。なかなかなんじゃないの。

わたしは緊張が最高潮に達していた。
愛想とか、そういう問題じゃない。

「それでちゃんと連れてきました。松葉です」
「初めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「まあ、顔を上げなさい」

最中祐吾郎会長。齢75にして、未だトップの実権を握っている。
業界は違うものの、この人に不興を買ったら、柴舟なんて吹けば飛ぶ。

恐る恐る顔を上げる。会長はわたしをじっと見ていた。

心臓が耳の後ろで鳴っているのでは、と思うほど煩い。

ぐっと腰を掴まれて浅黄さんの方へ寄せられた。

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