生簀の恋は青い空を知っているか。





縁側をずっと歩いていくと、立派な池があった。

なんか、この池、見たことがあるような……。
優雅に泳ぐ鯉を見てフラッシュバックが起きる。

「鯉はねえ、滝は登れないのよ」
「え、そうなんですか?」
「それはことわざ。鮭みたいに遡上するだけ」

遡上するだけでも、すごい。
小さな生け簀の中で、死を待っている魚であるよりずっと良い。

「事故にあったと聞いたけれど、傷はもう大丈夫なの?」
「はい。すみません、ご挨拶が遅くなって……」
「それは子供たちが海外に行っていたからだもの。気にしない気にしない」

なんか優しい人で、じーんとする。

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