予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
悪役令嬢と探し人。
カラン、カラン、と教会の鐘の音が聞こえて、ミリアは手元から顔を上げた。

同じように長いテーブルに着いていた人たちが顔を上げてカタリ、カタリと軽い音を立てて椅子を引いて立ち上がっていく。

王都の中心にある王立大図書館は大聖堂と隣接している。
そのため貴族街の端にあるミリアの家ーーータンゼント伯爵家のタウンハウスからは庭に出ていてもわずかにしか聞こえてこない刻を告げる鐘の音も、ここでは建物の内側にいてもしっかりと聞こえてきた。

カラン。
カラン。
カラン。

と聞こえてきた鐘の音は五回。

アクセリア王国では朝に二回、正午に三回。
そして夕刻に五回の鐘の音が鳴る。

夕刻の五回の鐘の鐘が鳴ると、朝や昼に開く市場や教会の聖堂や医療院、お役所といった場所は次々と閉まっていく。
かわりに夜の店が看板を出し始め、街のあちこちからは昼とは少し種類の違う喧騒が沸き立ち始めるのだ。


ミリアがこの日訪れていた大図書館もまたこの五回の鐘が閉館の合図だった。

ミリアは手元で開いていた本を閉じ、周りと同じように立ち上がった。
閉館時だから、いつもはしんと静かな図書館の中も立ち動く人の気配と足音、本を棚に戻す音に子擦れ合う書物の音と、たくさんの音が溢れている。
ミリアはたった今まで開いていた本の中身をブツブツと呟きながら本棚と本棚の間を奥へと進んでいく。ミリアが閲覧していた本は特別な手続きを経てでないと閲覧できない貸し出し禁止図書にあたる。おかげで通常の返却所ではなく奥にある特別図書のカウンターに返却しなければならなかった。
ちょうど入口とは逆になるため、他の利用者とは真逆に歩いていくことになる。
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