予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
ミリアは顔をしかめながら足を早めた。

絡まれているらしき人物は気の毒だが、ここでミリアが割り込んでみたところでより事態がややこしく面倒になるだけであろう。

(それに私だけではないわ……)

他にも人はいる。
でも誰も目と耳を逸して足早に去っていくではないか。

それに、

(もしかしたら怒鳴られている側にも非があってのことかも知れないし)

本音を言えば巻き込まれたくないし、関係もないのに首を突っ込む気にもなれない。
きっとその内に職員が気付いて止めに入るはず。

「そうよ。カウンターで職員の方に伝えればいいわんだわ!」

知らんぷりをしようと思うからなんだか胸がモヤモヤしてしまうのだ。

そうだ。そうしよう、と小さく頷いたその時ーー背後から「まどろっこしいわ〜、そのごちゃごちゃ罪悪感感じてるの〜、でも私には何もできないわ、怖いもの〜!ってな感じがウッザイ」という声が聞こえてきた。

ミリアの背後に人はいない。
けれどすでに聞き慣れてしまったその女性の声がどこからしているのか、ミリアは知っている。

背後から、というか、ミリアの背中から聞こえているのだと。

今日のミリアは、平民の女性たちが着るような丸襟のワンピースにカーディガン。編み上げのブーツ、両肩に革ベルトを通し鞄を背負っている。

ちょうど厚めの書物が一冊すっぽりと入るサイズの鞄。声はそこから聞こえていた。

もっと正確に言うならばそのに入っている本から。

「もっと手っ取り早い方法なんていくらでもあるじゃない」

フフン、と鼻で笑う声音とともにニュッ、とミリアの鼻先に何故か逆さまで宙から突き出るように現れると、声の主ーーーアージェは、ツン、とミリアの唇を指先でつついた。




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