花時の贈り物
麻野くんがノリノリで混ざって踊っているのを見つけて、采花と未来ちゃんが声を上げて笑いだす。
「ちょっと、麻野下手すぎ!」
麻野くんは少し周りとズレていて、地域のおばさんたちに笑われながら教えられていた。
「私も混ざってこよっと!」
「あ、私も行くー!」
采花と未来ちゃんが盆踊りの輪に入っていく。いつもならノリノリで入っていきそうな瀬川くんが何故か輪には入らずに私の隣にいた。
「瀬川くんはいいの?」
「いいよ。悠理が迷子になるし」
「こ、ここにいるから大丈夫だよ! 私のことは気にしないで」
気を遣わせてしまっているのだと慌てて、行っていいよと伝えても瀬川くんは首を縦には振らなかった。
「瀬川くん、こういう賑やかなの好きでしょ?」
「たまには悠理のペースでまったりしたくなったんだよ。今日はたくさん働いたしなー」
優しい人だと知っていたけれど、改めてそう感じた。初めてできた男友達。それはかわりないはずなのに心臓が大きく脈を打ち、瀬川くんの笑顔が眩しく思える。
「悠理はもっとワガママ言っていいよ。疲れたら疲れたって素直に言えば、俺も采花も悠理に合わせるし」
「でも、それは……」
「人に合わせることも大事だけど、合わせてもらうことも大事だと思う。それに悠理はいつも俺らに合わせてくれてるだろ」
私がはぐれた原因が疲れて歩くのが遅くなってしまったことだと瀬川くんは気づいていたようだった。
迷惑をかけてしまった申し訳なさもあるけれど、私のことをちゃんと見ていてくれたことに嬉しさがこみ上げてくる。
「これあげる」
先ほど采花から貰っていたキャラメルを一粒、私の手のひらに乗せた。それをぎゅっと握りしめて、笑顔になる。
「ありがとう、瀬川くん」
この日から私の中で瀬川くんは友達だけではなく、別の感情を持った存在になっていった。
三人でいるだけで幸せだったはずなのに、この気持ちは少しずつ膨れ上がっていってしまう。
だから、私はあの時————。