花時の贈り物



「采花? 大丈夫?」

未来ちゃんの声が聞こえ、はっと我にかえる。生徒たちの視線はスクリーンから采花に移っていて、ざわつき始める。采花は両手で顔を覆っていて、肩を震わせていた。


「ごめん……大丈夫だから」

いつもの声と比べて鼻声でくぐもっていたので泣いているのだとわかった。

「采花……」

騒然とする生徒たちの声に私の声が溶けていく。采花はなにも悪くない。壊したのは私だ。それなのにかける言葉がない。

時間は戻らない。あの頃の私たちはもうここにはいない。流れてしまった時を取り戻すことなんてできないのだ。


「保健室で休んできなさい」

事情を察した担任の先生がそっと声をかけると、采花は頷いて顔を隠しながら席を立った。

外の光を遮断された体育館から采花が抜け出していく。その背中を見つめているといろんな人の言葉が聞こえてきて、私は耳を塞ぎたくなる。



聞きたくない。言わないで。

でも逃げちゃダメだ。私も向き合わなくちゃいけない。卒業まであとわずか。もう別れが近づいている。

先生が動画を少しだけ巻き戻すと、再びスクリーンへと生徒たちの視線が集まる。

瀬川くんが先生の元へ行き、なにかを話してから体育館を抜け出していく。それを見て、もしかしてと思い、私もこっそりと体育館を抜け出した。


剥き出しの渡り廊下を抜けて、校舎に入ると少し廊下を進んだ先に保健室がある。


中を覗くと、ふたりの生徒の背中が見えた。



「ごめん。泣くつもりなんてなかったのに。いろいろ思い出して……」

采花が外を眺めるようにベッドの上に座っていて、その隣には瀬川くんが座っている。ふたりの距離は人ひとり分空いていた。



近いけれど、少し遠い。それが今のふたりの関係なのかもしれない。




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