花時の贈り物



「俺もちょっと泣きそうだった」
「……うん」
「ごめん」
「なんで瀬川が謝るの」

声を出すことができなかった。またふたりが一緒にいる。嬉しくてたまらない。でも、時間の流れが苦々しく私の心を凌駕していく。

過去に囚われているのは、私も采花も瀬川くんも同じだ。でも変われていないのは私だけなのかもしれない。


「私たちってさ、付き合ってるんじゃないかって噂されてたんだって」
「知ってる。よく聞かれたし」
「本当みんな勝手な噂ばっかりするよね。……私たちのことなにも知らないくせに」


私も何度も聞いたことがあった。明るくてクラスの中心的存在の采花と瀬川くんは似た者同士で、お似合い。そんな風に話している人もいた。


「でもさ、そういうのじゃなかったんだよ」
「それも知ってる」
「……私ね」


采花が涙を拭うような仕草をして、微かに震えた声で言葉を紡ぐ。


「瀬川と悠理が好きだったの。友達として大好きだった」

初めて聞く采花の気持ちは、私の中に衝撃を落とした。目の見開き、采花の言葉を反芻させる。

ずっと勘違いしていた。采花は瀬川くんのことが好きなのだとそう思っていた。

けれど、それは間違っていた。


「だからさ、三人でいるあの空間が壊れるのが怖かった。私だけがのけ者になったらどうしようって不安で、体育祭のとき悠理のことも瀬川のことも避けちゃったんだ」

采花は私に怒っているんだと決めつけて、避けられた理由も聞かなかった。私は自分のことばかりで、采花の本当の気持ちを確認しなかった。


「ごめんね、瀬川。あれからずっと瀬川を避けてたんだ」
「……俺も後悔するのが怖くて、采花のこと避けてた。ごめん」
「もっと早く話せばよかったね」
「でも多分今だから話せたんだと思う。……そのくらい俺らにとって簡単な問題じゃなかったから」

過去と向き合って、言葉にしたふたりはきっとこれから前に進めるはず。よかった。本当の気持ちが知れて。ふたりが和解できて、本当によかった。


「じゃあ、仲直りしよっか。もう今更だけどさ」
「本当、今更だな」

ふたりは顔を見合わせて笑った。私はこの場にいてはいけない気がして、そっと保健室から出る。


采花にとって私も瀬川くんも友達だった。
それなのに私はあの頃勘違いをして、勝手に焦って不安になっていた。後悔をしても遅いのはわかっているけれど、あのとき采花を傷つけないで済む方法があったかもしれない。


誰もいない廊下の壁に寄りかかるようにして、座り込む。

もしかしたら想いを自覚したときに采花に話していたら、ふたりはこんな風にならなかったのだろうか。




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