彼の愛した女(ひと)は?
「どうして知っているか? って顔しているのね」

「母さん、どうゆう事なんだ? 」

 静流が訪ねると、静香は優しく微笑んだ。


「初めは静流が用意してくれていると、ずっと思っていたの。でも、往診に来てくれる先生が前に急患でこれなくなった時。代わりに来てくれた先生が、同じ匂いがしてね。あれ? って思ったの。その後、その先生が事務所に入っていくのを見て。何か渡していたのを見たわ。その後も、診察じゃなくてもその先生は来てくれていて。その度に、お薬が良くなったり、新しい膝掛けがきたりして。だから気づいたの。私を助けてくれていたのは、静流じゃなくてその先生だって」

 
 静香は柊に手を差し伸べた。

「その先生、眼鏡かけていたけど。今、貴女を見て分かったわ。先生と同じ綺麗で優しい目をしているもの。・・・ねぇ、傍に来てくれない? 」

 
 柊は歩み寄り、そっと静香の手を握った。

「やっぱり先生ね。嬉しいわ、静流の紹介したい人が先生で」

「・・・出しゃばった事をしてしまって、すみませんでした」

「何を言っているの。とっても助かったのよ。うちは主人が亡くなって、残された財産も資産もあったけど。正直、底を尽きようとしていたの。静流が頑張ってくれているけど、私の療養にお金がかかっている事も知っていたの。早く主人が迎えに来てくれたら、静流も楽になるのかな? って思った事もあったの」

「私はただ・・・勝手に想い続けていた人でも。・・・心から好きになった人の家族を。守りたいと思っただけです。・・・」

「優しい人なのね。想い続けていたって、ずっと静流の事知っていたの? 」

「はい。小さい頃、私は孤児院にいましたので。その時に、よく遊びに来てくれていました」

「ああ、あの孤児院の子なのね? すごいわね、孤児院で育ったのにお医者さんになるなんて」

  静香は目を潤ませて柊を見つめた。
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