クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
゛favori crème pâtissière ゛

゛大好きなカスタードスイーツ゛

と言う意味のこの店には、まだパティシエもパティシエールもいない。

店舗の出資者は樫原和生。

オークフィールドホテルの目玉となるテナントを考えているときに、樫原は愛菓と愛菓が作るスイーツに出会った。

その翌日から、樫原は内装工事に着手し、2週間前からは、愛菓を口説き落とすために゛le sucre゛に通い続ける生活を続けた。

普通に考えれば、天才パティシエールと名高い愛菓をle sucreのオーナーが手放すはずがない。

だからこそ、樫原は綿密にリサーチを行い、オーナー夫婦とその息子夫婦に接触を試みて打開策を見つけた。

昨年、イタリアから帰国した佐藤優吾は単独でも店を切り盛りできるショコラティエだ。

店にツートップはいらない。

ましてや優吾の妻も洋菓子を専門としたパティシエールだ。

嫌ってはいなくても、愛菓に劣等感を抱いているのは明らかだった。

しかも、佐藤オーナー夫妻は、長年、愛菓を店に縛り付けてしまっていることに罪悪感を覚えている。

Mrクールと名高い樫原は、相手の弱味につけこむことを得意としている。

「愛菓さん自身の可能性を広げてあげたくはないですか?」

そんな言葉を囁けば、佐藤オーナー夫妻も優吾も二の句を紡げないことぐらいわかっていて、悪魔のように囁いた。

゛将を射んと欲すれば先ず馬を射よ゛

大将を得たければ、その馬を先に射ればいい。

企てから早1ヶ月。

ついに、樫原は大将を射ようとしていた。

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