クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「こんにちは、樫原さん。相変わらずイケメンですね」

5席しかないテーブル席は常に満席だが、彼が座るのは、いつも6人並びの壁際のカウンター席の一番端。

樫原は、愛菓に目をやると、うっすらと微笑みを浮かべて椅子に座ったまま体を向けた。

先程までパーテーション向こうで作業をしていた愛菓がフロアに出てきている・・・。

なかなか近寄れない学校のアイドルを目にしたように、テーブル席の高校生が色めき立った。

帽子を取り、コックコートのまま接客をする愛菓は凛として美しく、背も168cmと高いためとても目立つ。

しかも、愛菓が接客しているスーツ姿の樫原も、愛菓と同様に183cmの高身長で、モデルと言っても納得するほど格好いい。

彼は樫原和生(かしはらかずき)30歳。オークフィールドホテルの若き専務であり御曹司だ。

「愛菓さんこそ今日も美しいですね。ここのお菓子のように輝いている」

見つめあって微笑み合う二人は端から見れば、目の保養でしかない。

しかし、現実では、

樫原は周囲が頬を染めるような甘い言葉を語ってはいるが、別に男と女として愛菓を口説いているわけではなかった。

「何度もお断りしているように、私はまだ独立する予定はないんです」

そう、樫原は愛菓を自社に勧誘している真っ最中なのだった。
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