クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「オーナーがそう言うのなら・・・」

「やっと話を聞いて下さるのですね?」

クールな樫原の顔に、明らかな笑顔が浮かんだ。

゛ああ、この人こんな風に笑うんだ・・・゛

愛菓は、フッと微笑みながらも、小さくため息をついて、樫原に向き直った。

「それで、私はどこへ伺えば?」

「オークフィールドホテルのフロントに、今夜19時はいかがでしょう?」

ここから、ホテルオークフィールドまでは電車で二駅だ。

今日の就業時間は18時まで。

十分間に合う時間だ。

「わかりました。お伺いします」

「ああ、ようやく片想いが実った気分だ。まだ何も始まってもいないのに恥ずかしいですが」

そう言う樫原の顔は相変わらずクールではた目からは浮かれているようには見えない。

だが、愛菓にはその口角が僅かに上がっているのが分かるようになってしまっている。

゛絆されてるな゛

Pouding adulte゛を平らげ、意気揚々と席を立つ樫原の目線は、背の高い愛菓よりもかなり上にある。

「それでは、愛菓さん、お待ちしておりますのでお忘れなきよう」

゛ではごめん゛

侍のように颯爽と去っていく樫原を見送りながら、愛菓と健一は顔を見合わせて笑った。
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