クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
19時。

愛菓は、オークフィールドホテルのフロントにいた。

白いシャツに黒いパンツという飾り気のない格好だが、毛先がカールしたサラサラのロングヘア、モデル体型の愛菓はとても目立っていた。

しかし、天然で、他人の視線を全く気にしないマイペースな愛菓は、一人タブレットを片手にブツブツと新作レシピを考えながら樫原を待っていた。

「あれ、話題の魔術師じゃないかしら?」

「プリンの?」

「バニラじゃなかった?」

「いや、カスタードでしょ?」

愛菓は先日、若い女性をターゲットとした月刊女性誌の取材を受けて、多少は顔が売れていた。

「愛菓さん、お待たせしましたか?」

「いえ、今来たところです」

見つめ合う愛菓と樫原の姿に、ホテルマンもゲストも息を飲む。

「うひゃ、美男美女だけどなんかクール過ぎて寒い」

そう、実際゛Mr.クール゛と゛激ウマスイーツを作るのに淡白なパティシエール゛と噂されている2人。

この美しい男女の間には、クールな冷気しか感じないのは仕方のないことだった。
< 8 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop