エリート外科医といいなり婚前同居
不穏な空気に怖気づきながらも、なぜか胸は高鳴っていた。
まるで、礼央さんに嫉妬されるのがうれしいみたい。でも、嫉妬がうれしいなんて、いったいどうして……?
胸の内で自問自答していると、拓斗くんの諦めたようなため息が聞こえた。
「……ま、今日のところは引き下がりますよ。でも僕も本気なので、隙があれば奪いますから」
「無駄だよ、隙なんて俺が作らせない」
「本当に束縛彼氏じゃないですか。……まあいいや。じゃあ千波さん、また」
「う、うん……」
曖昧に頷いて、店を出て行く拓斗くんの背中を見送る。
本気とか、奪うとか言ってたけど……それって、もしかしてそういう意味なの?
まさか、拓斗くんは私を……。
ぐるぐる考え込んでいたら、いつの間にかそばに立つ礼央さんがスマホを耳に当てているのに気づく。
どこかに電話……?
何気なくその姿を見つめていたら、彼が電話の相手に話し出す。
「暁です。すみませんが、今夜は欠席させてください。……はい。同居している婚約者の体調がよくなくて」
同居している婚約者って私……? 体調なんて、まったく悪くないけど。
目を瞬かせて成り行きを見守っていたら、通話を終えた礼央さんがちらりと私を見た。
その瞳に静かな怒りが滲んでいる気がして、私は思わず息を呑む。