エリート外科医といいなり婚前同居

「……私はね、千波さん。彼がそんな最低な男だとしても好きなの。だからあなたのことは正直目障りなのよ。これくらいのことで泣くようなあなたに、暁先生レベルの男は手に負えない。さっさと手を引いて。それがあなたのためでもあるんだから」

由貴さんは冷たく言い放つと、伝票を手にして席を立つ。

私もなにか言い返さなきゃと思うけど、「ひっ」という情けない嗚咽を漏らすことしかできず、彼女はあっという間に立ち去ってしまった。

テーブルにひとり取り残された私は、全く減っていないコーヒーの液面に映る、情けない自分の顔を見る。

ひどい顔……。好きな相手と相思相愛だと勘違いして、弄ばれていたことにやっと気づいた、みじめで哀れな女の顔……。

「私、どうしたらいいの……」

涙声でぽつりと呟き、唇を噛んだ。このまま礼央さんに黙ってマンションを去るか。それとも最後に彼と向き合って、完璧に失恋するか。

何事もなかったかのようにこのまま同居生活を続けるという選択肢もあるけど……今の私にそれは選べないよ。

いくら考えても最善の道がわからぬまま、私は長い間冷めたコーヒーの前に座っていた。

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