エリート外科医といいなり婚前同居
帰宅してからも夕食を作る気にはなれず、私はリビングでテレビも点けず、姿勢よくソファに座りただじっと礼央さんの帰りを待っていた。
すると六時過ぎに玄関で物音がして、彼の帰宅を知らせた。徐々に近づいてくる足音に思わず体がこわばる。
「千波、ただいま」
リビングのドアが開き、なにも知らない礼央さんがいつも通りのトーンで言いながら部屋に入ってきた。
おかえりなさいも言わずに座ったままでいると、礼央さんはコートを脱ぎながらキッチンの様子を覗いていた。おそらく料理ができていないことに気づいただろう。
それから歩み寄ってきた彼は、ソファのすぐ隣に腰かけた。
「どうしたの? 今日は体調でも悪かった?」
私を心配する優しい声に、胸が詰まった。
昼間由貴さんにぶつけられた数々の言葉がいつまでも心に刺さっていて、こうして私を気遣ってくれるのも〝エサ〟の一種なのだろうかと勘ぐってしまう。
私は静かに首を左右に振り、それから小さく口を開く。
「礼央さんは……」
「ん?」
「どうして、私を抱かないんですか?」
こんな気持ちで、彼のそばにい続けることはできない。けれど彼の元を去る前に、どうしても真意を確かめたかった。
だから、由貴さんに勧められた通りのやり方で、彼を試すことにしたのだ。