エリート外科医といいなり婚前同居
再びソファに座り直した礼央さんは、その子どもだましの聴診器を装着すると、じりじりと私に迫ってくる。
そして、少し上擦った甘い掠れ声で囁いた。
「千波。お医者さんごっこ、しようか」
次の瞬間、私は右手を思い切り右手を振り上げ、彼の頬をはたいていた。
その道具……やっぱり、そういう目的で部屋に隠していたんだ。
ひどいよ、礼央さん……。私がそんな馬鹿みたいなこと望んでいると思ったの? それとも、彼の前で泣いたりわめいたりする女性を、今までずっとその方法で大人しくさせてきたの……?
どちらにしろ、彼が私を大事に思っていないことは明らかだ。
もう、ここにいる理由はない。私はやっぱり、彼の便利な家政婦ロボットだったんだ……。
私は悔しさで肩を震わせながら、彼に最後の別れを告げる。
「あなたにはがっかりしました。二度と会いたくありません。……さよなら」
そう言い残して部屋を去る私を、礼央さんは引き留めなかった。
私は泣きながら部屋の荷物をまとめてスーツケースに押し込み、逃げるように彼の部屋をあとにした。