エリート外科医といいなり婚前同居
その後私たちは近所の公園に移動し、私をベンチに座らせた拓斗くんが、足元に跪いて傷の手当てをしてくれた。
「痛むけど、我慢してくださいね」
「う……」
拓斗君が水道の水で濡らしたハンカチを使って、汚れた部分を拭きとる。ただの擦り傷とはいえ水がけっこうしみて、ヒリヒリ痛んだ。
それから、いつも持ち歩いているらしい消毒液で消毒をしてもらい、絆創膏を貼ってもらえば手当ては完了した。
まだ少し痛むけど、終始手際よく手当てしてくれた拓斗くんが頼もしかった。
けれどその後もすぐに家に帰る気になれず、ベンチにふたり並んで座んで他愛のない話をした。
「ありがとう。さすがはお医者さんの卵だね」
「大げさですよ、擦り傷に絆創膏貼ったくらいで」
「えー、だって私、それすら下手だもん。よっぽど医者の素質ないんだろうね」
ふふっと笑い合って、会話が途切れる。すると拓斗くんが私のスーツケースを見ながら言った。
「実家に帰ろうとしてたんですか?」
「うん、そうなの。……ほら、年末年始だしさ」
さっき思いついたばかりの適当な言い訳を口にすると、拓斗くんが疑いの眼差しで私を見つめてくる。
なんでだろう。自分では平静を装ったつもりなんだけど。
内心冷や汗をかく私に、拓斗くんが意外な事実を告げた。