エリート外科医といいなり婚前同居
黙っていたらすぐに思考が暗くなりそうなので、拓斗くんとの実のない会話に救われる。
実家に彼とふたりきりというシチュエーションには身構えたけど、話し相手がいると余計なことを考えなくて済むし、今の私にはちょうどいいのかもしれない。
そんなことを思いながら久々の実家に帰ると、少しだけ中の様子が変わっていた。
白石さんと拓斗くんを迎え入れるために、父が色々片付けたようだ。
私の部屋はそのままだったけど、不要な衣類やがらくた類が段ボールとごみ袋にまとめられ、廊下や部屋の隅に置かれていた。
「年末のごみ収集はもうないんだっけ……」
呟きながらキッチンの冷蔵庫に貼られた地域のごみカレンダーを眺めていたその時、自分の部屋に上着や荷物を置きに行っていた拓斗くんがリビングダイニングに現れた。
「千波さん、これ僕が使わせてもらっている部屋の収納に入ってて、紺野先生が〝今度千波が帰ってきたら渡す〟って言ってたものなんですけど……」
彼はそう言って、私にあるものを差し出す。それはとても懐かしいおもちゃで、私は思わず顔をほころばせた。