エリート外科医といいなり婚前同居

白石に苛立ったようにけしかけられ、俺はうなずいた。そして素早く車に戻り、来た道を引き返す。幸い道路は空いていて、マンションまでさほど時間はかからなそうだ。

少し気持ちに余裕を取り戻しつつ、たまたま差し掛かった交差点の赤信号で止まっていた時だった。ふと歩道に目をやると、小さな人だかりができているのに気づく。

信号がまだ変わらないのを確認してもう一度歩道に視線を移すと、人だかりの中心に女性が倒れているのが見えた。

目を凝らしてみると、どうやら意識がない様子だ。それを認めた瞬間、考えるより先に体が動いていた。

俺は付近の安全な場所に車を停め、人だかりをかき分け歩道で倒れている女性の元へ駆け寄る。

「大丈夫ですか!? 誰か救急車を呼んでください! それとAEDを!」

周囲の人々に指示を出し、できる限りの応急処置をする。千波を待たせることになってしまうと頭の片隅でわかってはいたが、医者として見て見ぬふりなどできなかった。

やがて救急車が到着し、搬送先に決まった病院は偶然俺の職場だった。

救急隊員と病院側とのスムーズな連携を取るために俺はそこまで車でついていき、そのまま結局仕事をすることになった。



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