エリート外科医といいなり婚前同居

「あの」

私はちょっと大きめの声を上げ、強い眼差しで暁さんをまっすぐ見つめた。

「うん? どうしたの、怖い顔して」

「私のこと、からかっているんだったら、そういう態度はやめてください! 私はただの家政婦なんです。暁さんの恋人だって、いい気はしないと思います!」

私は真面目に家政婦の仕事をしようと思っているのだ。たとえ険悪なムードになろうと、こういうことは、最初のうちにきちんと話し合っておくのがいいだろう。

「俺……恋人なんて、いないけど」

暁さんは静かに言って、苦笑した。その意外な返答に、私はぽかんとして聞き返す。

「え?」

「いたら、若い女性の家政婦なんて、そもそも雇わないよ。トラブルの種になるだけだろ」

言われてみれば……まったくもって、仰るとおり。彼の言い分に納得し、私は黙り込んでしまう。

しかし次の瞬間、暁さんの低いハスキーボイスが私にこんなことを問いかけた。

「ただの家政婦を、可愛がっちゃダメ?」

同時に向けられたのは、甘えるようにトロンとした視線。そこから放たれる彼の色香に、不覚にも胸が高鳴った。


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