エリート外科医といいなり婚前同居

まだ午後三時すぎだというのに、冬の太陽はすでに西側に傾いて眩しかった。

暁さん、ちゃんとお昼ご飯食べたかな……。温めるだけの昼食を作っておいたし、そうでなくても暁さんは大人なんだから自分でなんとかするだろう。

そうはわかっていても、半日離れていただけで彼が心配になり、駅に向かう足は自然と速くなる。

「あの」

そのままひとりでずんずん進んでいたら、拓斗くんに呼び止められた。

足を止めると、気まずそうな顔をした彼が歩み寄ってきて、私を見つめる。

「なに?」

呼び止めたのに、しばらく何も言わずに唇を噛んでいた彼を怪訝に思って問いかけると、拓斗君は意を決したように顔を上げ、口を開く。

「母には口止めされているんですが……どうしても千波さんに伝えておきたいことがあります」

白石さんが、口止め……? なにを? なんのために?

なんとなく胸がざわめくのを感じながらも、ここまできて途中で話を引っ込められても困る。

「……うん。なに?」

おそるおそる続きを促すと、拓斗くんはとても苦しそうに眉を顰め、絞り出すような声で言った。

「千波さんのお母さんが亡くなったの……僕のせいなんです」

「え……?」

どういうこと……? 拓斗くんのせいで、母が亡くなった……?

寒空の下で向き合った彼の瞳は、とても哀しい色をたたえ、揺らめいていた。



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