エリート外科医といいなり婚前同居

私たちは場所を近くの喫茶店に移し、拓斗くんの話の続きを聞いた。

私は母の死因を交通事故だとしか聞かされていなかったけれど、その原因を作ったのが拓斗くんであったと告白され、謝罪されたのだ。

二十年以上前のことで、当時の彼はまだよちよち歩き。

人一倍好奇心旺盛で、母親である白石さんが目を離したすきに車道に飛び出したところを、偶然通りかかった母が庇って助けたのだそうだ。

父や長年勤める病院の職員さんたちから聞かされている、母の人柄であればそうするだろうと思った。むしろ、勇敢に幼い子を助けた母を、誇りに思う。

一歳やそこらの年齢だった拓斗くんが責任を感じることもないし、その時目を離してしまった白石さんも、ひとりで子育てをしていた疲労もあっただろう。

誰も悪くないし、今さら気にする必要はない。

もしそのことで、白石さんが父との結婚に踏み切れないのだとしたら、拓斗くんが背中を押してあげて欲しい。拓斗くんも、跡継ぎのこと、そんなに重く考えすぎないで。

私はそんなようなことを言って、喫茶店で拓斗くんと別れた。

初めて聞かされた事実に驚きはしたけれど、白石さんや拓斗くん、そして今までそれを教えてくれなかった父を恨む気持ちなどは生まれなかった。


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