エリート外科医といいなり婚前同居

大人たちはきっと私が傷つくのを避けようとしただけだし、そんな事実をひとりで抱え込んでいた拓斗くんはむしろ私以上に苦しかっただろう。

私に伝えることができて、少しは楽になったかな。

誰のことも責めずに、一歩引いた目線から状況を見て、私はその場を平然とやり過ごしていたと思う。

そして、何食わぬ顔をしているつもりで、暁さんと同居するマンションに戻ったのだけれど……。

玄関のドアが閉まる音に気付いて部屋から出てきた暁さんは、私の顔を見て唖然とした。

「……千波さん、どうしたの!?」

「え……?」

どうしたのって、私は別にどうもしてませんけど……。

ぽかんとしているうちに、険しい顔で近づいてきた暁さんが、私の顔に手を近づけて、親指の腹でそっと目元を撫でた。

「この涙はどうしたのかって……聞いてるんだけど」

真剣な声のトーンで話す彼の、鋭い瞳が私を射抜く。どうやら嘘や冗談ではないらしい。

自分の手で、彼の触れている方とは逆の目元に触れてみると、確かに指先が濡れていた。

ホントだ、泣いてる……。でも、どうして?



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