エリート外科医といいなり婚前同居
「ただいま」
帰宅し、玄関から呼びかけると、リビングダイニングから出てきた千波は忠犬のように俺の元へ駆け寄ってくれる。その姿を見ただけで、一日の疲れが不思議と癒される。
「おかえりなさい。ご飯とお風呂、どっちにしますか?」
無邪気に尋ねてくる彼女が可愛すぎて、さらに「それとも私?」と付け加えてくれたら完璧なのにと、ベタ過ぎる妄想が頭の中をよぎる。
今日は、前にプレゼントした俺の好みどストライクのエプロンをつけてくれているし……本当に、家政婦ではなく俺の可愛い新妻なのだと錯覚しそうになる。
「礼央さん?」
黙っている俺の顔を覗き込む、濡れた黒目がちの瞳。小さなピンク色の唇。
……ああダメだ。やっぱり、飯よりも風呂よりも先に、千波がいい。
廊下に上がった俺は、そのまま彼女の体を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
鼻先にあるやわらかな髪からは彼女の甘い香りがして、胸が切なく疼く。
「あ、あのっ……」
胸元から、千波の焦った声がする。真っ赤な顔が見たくて少し体を離すと案の定りんごのように頬を染めていて、俺は彼女の耳元に「可愛い」と囁いた。
千波がますます赤くなっているだろうことは、見なくてもわかる。触れている彼女の体温が、どんどん上がっていくのを感じるから。