エリート外科医といいなり婚前同居

「よし。……充電完了」

しばらくしてからそう言って体を離すと、千波は「お味噌汁温めてきます!」と一目散にキッチンに逃げていく。

おそらくそこで鍋をかき混ぜながら、平常心を取り戻すのだろう。

そんな感じで俺の言動にたくさんの可愛い反応を見せてくれる千波だが、彼女はあまり恋愛経験がない。

だから、ドキドキしたり頬が赤くなるのは、ただの生理現象なのではないか。だとしたら、相手が俺だからとは限らないと、不安に思う自分もいる。

でも……いつか過去の俺をちゃんと思い出して、そこから繋がる俺の想いを知って。そのうえで俺を受け入れてくれるならば。

その時は家政婦でもなく、偽物の婚約者でもなく。この世にただひとりのかけがえのない大切な人として、ためらいなく彼女をを愛すと決めている。

だから、今はまだ〝ごっこ〟の域かもしれないけれど――。

「千波。おやすみのキス」

最近、寝室に引っ込む前に、俺は彼女にそんなおねだりをするようになった。

婚約者として自然に振舞うための練習だと言いくるめたが、本当はただ千波とキスがしたいのと、恥ずかしがる彼女を見たいだけだ。

俺が先に目を閉じて彼女の唇を待つと、千波はつま先立ちをして、触れたか触れないかわからないくらいの、短いキスをくれる。


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