エリート外科医といいなり婚前同居

「ちゃんとした? 今」

本当は触れたとわかっているのに、わざとらしくそんなことを問いかける俺。
千波はふいっと顔をそらし、口を尖らせる。

「し、しましたよちゃんと……」

拗ねた様子の彼女が可愛くて、結局は身をかがめ、俺からキスをしてしまう。千波は小さな悲鳴を上げるが、観念して力を抜き、俺の唇を優しく受け入れた。

「可愛い」

唇を離してたまらず呟くと、千波は真っ赤な顔で俺を睨んで言う。

「礼央さんは、意地悪です」

「うそ。どこが?」

「私が照れるのわかってて、そういう……甘いセリフばっかり……」

「しょうがないだろ、可愛いんだから」

そう言って瞳を覗き込めば、千波はますます怒った顔になって言い放つ。

「もう知りません! 私先に寝ますからね!」

ああ……少し、苛めすぎたかな。

パタパタと自分の部屋に駆け込む後ろ姿を見送り、彼女の残り香を胸に吸い込むと、愛しさと切なさが同時にこみ上げる。

きみはまだ、本当の婚約者ではないけれど……今はこの甘い毎日が、ただ愛しい。

昔のことを思い出してくれなくても、彼女の反応がただの生理現象だったとしても。一生懸命婚約者を演じてくれるきみと、かりそめの幸福に浸っていたいんだ――。



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